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スイスポスト:超高効率性を目指しイノベーションへ投資

【News Pickup】スイスポスト:超高効率性を目指しイノベーションへ投資

日本でも実用化に向けて実証実験されるドローン。スイスでの実験結果は如何に!?

2月、東京にて運輸政策研究機構(運政研)の国際問題研究所が主催する「ドローンと交通に関する国際セミナー」が開催されました。
その中でスイスのスイスポスト社から「ドローンによるラストマイル配送実験」についての発表があり、大変興味を持ちました。
その後3月にドイツのハノーファーで開催されたIT関連の展示会「セビット(CeBIT)」でも同社が講演&ブース出展しており、話を聞けましたのでご報告いたします。

まずはスイスという国についておさらいしておきます。スイスは欧州の中央部に位置する内陸国で、その面積は4.1万㎢と九州より少し小さい位です。
「アルプスの少女ハイジ」のイメージさながらに、国土の大半が高原もしくは山岳地帯で、特に南部のイタリア国境・フランス国境はアルプス山脈になっており、急峻な山々が見られます。
人口は2014年のデータで824万人(九州は1,300万人)となっています。

「日本郵政グループ」とほぼ同様の企業と位置付けられるスイスポスト社は、スイス政府が保有する国営企業で、同国最大のロジスティクス企業です。
日本では日本郵便が郵便事業を手掛け、離島・山間部などの過疎地も含めた全国均一のサービス(ユニバーサルサービス)の提供義務がありますが、スイスポスト社にも同じ義務があります。スイスには離島はありませんが、多数の人里離れた山村があり、そこへも郵便物や小口貨物を届けなければなりません。

一方で、スイスの物価と人件費の高さは北欧諸国と並んで世界トップクラスです。また、日本同様に人口の高齢化に直面しており、将来的に配送ドライバーの成り手がいるのかも心配されています。そして同社の売上の源泉である郵便物の数は年々減少しているにも関わらず、Eコマース(EC)事業者による物流業参入などにより、競合の脅威は増える一方です。
そこで同社は、「イノベーション」に投資することで競合の先を行く戦略をとりました。「Super Productive&Lean(超高効率性の追求)」というスローガンの下、ビッグデータ(IoT)、ドローン、自動運転シャトル(写真1)、スマートボタン、インテリジェント・センサーなどの自動化技術を実験しています。
CeBITの講演では「技術はもうある、あとは実行するのみ」という力強いコメントがありました。

写真 1:自動運転シャトル
出所:スイスポスト社プレス資料

ドローン配送実験

ドローンによるラストマイル配送実験は、山村への自動配送を中心に、2015年7月からスイスのジーランド地区で行われています。同社の他、スイス航空のカーゴ部門であるスイス・ワールド・カーゴ社も実験に参加し、米国シリコンバレーのマターネット社(Matternet)のドローン機(写真2)を使用して行っています。

写真 2:ドローン機(片手で持てる)
出所:スイスポスト社プレス資料

プロペラが4つのクワッドコプターで、運ぶ重量は1kgまで(手紙と小口貨物)、飛行距離は10kmです。ただし、配送後は帰還しなければならないため、目的地への片道は半分の5kmまでとなります。飛行時の最高時速は40km/h。基本的に自律飛行(Autonomous flight)しますが、スマートフォンの操作アプリも開発されており、離着陸などの指示は地上から出せます。現在位置の確認やルート追跡なども、スマートフォン上で行うことができます。

なお、2月のセミナーでも話題になったドローン飛行に関する法制化(法規制)については、各国対応中です。スイスでも同国の航空局(FOCA)の指導により、空港付近は飛行禁止、FOCAの事前許可がなければ人口密集地などは飛べません。

実験結果と今後のプラン

これまでの実験では往復9.5kmまでの配送に成功し、ドローン自体の不具合や衝突事故は一度もなかったとのことです。同社は半年間の実験結果に満足し、さらなる実験継続を決定しました。この結果はスイス国内のみならず欧州の様々なメディアで伝えられ、消費者に良い印象を与えた模様です。

同社が見据えている近い将来のドローン活用法は、前述した①「山岳地帯の配送」と、②「緊急性があるメディカル品(医療・医薬品)配送ネットワークの構築」です。

まず①「山岳地帯の配送」ですが、現在は最寄りの街から山村にトラックで小口貨物を引き取りに行って、また街に戻ってくるまで約2時間掛かっているそうです。
小口貨物のみならず、手紙一枚でも取りに行かなければならないため、スイスの高い人件費を考えると、とてもペイしそうにありません。その街と山村の往復の配送をドローンに置き換えることにより、1㎞あたりの配送コストを1スイスフラン以下にすることが目標とのことです(ちなみに1スイスフランは執筆時点のレートで約115円)。

なお、チューリッヒやジュネーブなどの都市部では、現時点でドローン配送の導入予定はないようです。都市部の配送効率は非常に高いからというのがその理由。スイス最大都市のチューリッヒでも人口40万人程度(周辺地域を含めると約200万人)で、鉄道やトラムなどの公共交通機関も発達しているため、激しい渋滞はあまり発生せず、配送担当者も効率的に動けるのでしょう。

写真 3:チューリッヒの街並み

②「緊急性があるメディカル品配送ネットワークの構築」は、スイス国内の医療機関の間で、必要なメディカル品(例えば、インシュリンやワクチン、血液など)を迅速にやりとりする体制を構築したいという発想から企画されました。メディカル品配送については山岳地帯だけでなく、スイス全土のカバーを視野に入れたプランです。
計算上は半径300kmで全土をカバーできますが、ベース拠点の数はドローンの飛行可能距離や物量、飛行の頻度などに左右されるため、今後、後述する課題も加味して決められることでしょう。

ではその先はどういう展開になるのでしょうか?スイスポスト社は「EC3.0」と銘打って、新たに発生するであろうECの顧客ニーズに、新たなテクノロジーで対応しようとしています。
「EC3.0」の対象は配送だけではありませんが、ドローンが配送部分の新しいソリューションの担い手の一つとなることは確実です。

表 1:EC2.0とEC3.0の違い

技術革新と課題

ドローン機に関しては、現在使用しているクワッドコプターより強力なヘクサコプター(プロペラが6つ)による実験を行う予定です。
クワッドコプターに比べて飛行距離が長くなり、重いものを運べるようになります。すでにプロトタイプ機があり、片道飛行距離30km、運搬重量10kgを目指しているようです。米国でピッキング・ロボットを開発しているベンチャー会社の社長が、あるインタビュー記事で「6kgまで持つことができれば、EC商品の90%がピック可能」と述べていました。ドローンの場合、運搬する物品の形状によって制約はあるものの、10kgまで運搬可能になれば、EC商品でも大半のものが運べることになるでしょう。

メディカル品の中には、厳重な温度管理が必要なものが多々あります。となると、ドローン機もしくは運搬用の箱(写真2の黄色いボックス)にも、温度管理ができる機能を装備しなければなりません。トラック輸送に例えると、冷蔵・冷凍車や保冷・冷凍ボックスのようなものです。
この点に関して、CeBITのブースで開発しているのかどうか聞いたところ、「行っている」と営業マンらしい回答がありましたが、具体的なことは全くわかりませんでした(仮に知っていたとしても「企業秘密」で教えてくれないかもしれませんが)。

ベース拠点に関しては、ドローン機が自動で電池を交換する機器を導入したいとのこと。「自動充電」ではありません、「自動交換」です。
人の手を介さずに自動で電池交換ができれば、一仕事終えたドローン機が夜中に戻って来ても、電池交換後すぐにまた飛び立つことができます。理論的には貨物を配送する目的地までの距離も無制限になります。

では最後に、課題を3点リストアップして報告を終えたいと思います。

  • 天候
    山岳地帯では雪がたくさん降り、吹雪もあるでしょう。そのような過酷な気象状況の中でも安定して飛行、配送することができるか?
    少なくとも1年間、全ての季節を通して実験しデータを取ることが求められます。
  • 住民の印象
    これまでは好意的なメディア報道が多く、ドローン配送に対する印象は良いようです。
    しかし、実際に配送が始まり、大きなドローン機が空中に20~30機も飛んでいるとなると、さすがにこれは怖いのでは?という議論が出てくるでしょう。
    この点はまだ検証、検討が必要です。
  • 既存のデリバリーチェーンとの統合
    全ての配送をドローンで置き換えることはできず、幹線輸送部分のトラック配送はなくなりません。
    既存のデリバリーチェーンとどのように統合していくかも今後の検討課題です。

この記事の著者

◆出身地:福岡県福岡市 ◆血液型:B 型 ◆趣味:ラグビー観戦、ランニング、旅行、酒
1993 年 早稲田大学 教育学部 英語英文学科 卒業
2001 年 University of Washington, Foster School of Business 修了 (MBA)
【得意分野】 新規事業の企画および立ち上げ、海外進出、国際交渉

iPhone に「been」という、これまで行ったことがある国を世界地図上で示すアプリがあります。社会人になってから 20 年強ずっと国際関連の仕事をしており、2009 年に当社に入社してからも海外調査や取材等で年間四分の一は海外出張という生活だったので、だいぶ地図も埋まるかな~と期待していたら、全世界のたったの 14%(32 ヶ国)しか行ってないことが判明しました。「あれだけエコノミークラスで長い時間を過ごしても 14%か…」と多少落胆しましたが、同じ国に何度行っても“1 つ”としかカウントされないのでしょうがないか。しかし、いつものハードでバタバタのビジネス出張ではなく、ゆったりしたプライベート旅行で「been」の地図を埋めていきたいものです。無料のアプリなので、興味のある方は試してみて下さい。

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