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欧州・北米で見てきた物流未来図

【Special article】欧州・北米で見てきた物流未来図

昨年に続き、今年も欧州および北米最大の物流機器展示会であるLogiMAT(ロジマット:3月、ドイツ・シュトゥットガルト)とProMAT(プロマット:4月、アメリカ・シカゴ)が開催され、当社も両方に参加し取材してまいりました。またLogiMATの後にITの展示会であるCeBIT(セビット:3月、ドイツ・ハノーファー)にも参加しております。今月号の「ろじたす」では全紙面を充ててこれら展示会を特集し、「欧州と北米の物流がどのような状況なのか」「どこへ向かっているのか」など、気になった情報をピックアップしてご提供いたします。

LogiMAT会場ProMAT会場

        写真1:LogiMAT会場               写真2:ProMAT会場

◆キーワード:サプライチェーン全体の“透明化”(Visibility)

物流業界におけるここ数年のトピックとしては、(1)「物流のデジタル化」「IoT・AI(人工知能)の活用」と、(2)「自動化」「ロボット活用」の大きく2つのトレンドがあります。昨年のLogiMATやProMATもそれらがメーントピックでしたが、今年は更にそれらが増殖した印象でした。その中で特に目についたのが、「サプライチェーン全体の透明化(英語ではビジビリティ“Visibility”)」です。LogiMAT・ProMAT双方で多くの企業が自社製品・サービスやソリューションをアピールする際に用いていました。

「透明化」というのはサプライチェーン全体をキチンと(正確に)、リアルタイムで把握するという意味で、物流においては新しい概念ではありません。ところが、実際に“キチンと”、“リアルタイムで”把握するというのは非常に難度が高く、コストのかかる行為でした。IoTの登場によりそれが安価でできるようになるというのが売り文句です。筆者なりにわかりやすく表現してみると、「全体最適化を実現するためには、まずは全体がどうなっているのかを理解しないと最適化はできないでしょ?だからまずは“透明化”なんですよ。」となります。まさしく経営学の大家ピーター・ドラッカーが言ったという「測れないものは管理できない」の言葉の通りです。

では、具体的に「透明化」のためにどんな商品・サービスが出ているかというと、ほとんどが「ダッシュボード」です。飛行機のコックピットに座り、様々な計器を見ながらリアルタイムで状況を把握し、決断を下すパイロットのように、物の動きやKPIをリアルタイムで把握できるソフトウェアです。しばらくは「透明化」のダッシュボードの性能や使い勝手を巡り、ソフトウェア会社・IT会社間の競争が続くでしょう。ダッシュボードで現状が把握できたら、その後どうすべきかを助言し、ユーザーが次の一手を決断しやすくする、といった機能も紹介されていました。

◆“消費者”から逆算して未来の物流を予測

北米のProMATは、900社以上の出展があり展示ブースは盛り上がっていましたが、カンファレンスでも興味深いテーマの講演が多数ありました。その中で、ProMATの主催者でもあるMHIが、3年ぶりに内容を更新した「マテリアルハンドリングとロジスティクス 米国ロードマップ2.0(略称:ロードマップ2.0)」が二日目に発表されました。

ロードマップ2.0の冊子

写真3:ロードマップ2.0の冊子

ロードマップ2.0は、今から2030年に向けてマテハンとロジスティクスに「どのような変化が起こるのか」を予測し、主にMHIの会員であるロジスティクス関連企業にその対応と準備を促す資料です。2014年に初版が発行されましたが、事業環境変化のスピードが速く、追加・修正点が増えたため、今回の第2版発行になったとのことです。ロードマップ2.0は英語版のみですが、MHIのウェブサイト(http://www.mhlroadmap.org/)からPDF版をダウンロードすることができます。
ロードマップ2.0では、将来予測を行うにあたって4つの要素(以下)を分析しています。

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これら4つの要素から「逆算」して、「未来の物流はこうなるかも」「多分2030年はこうなっている」と結論を導いています。筆者が注目したのは「消費者」を重要なポイントと考えている点です。考えてみれば当たり前なのですが、我々を含む「消費者」が何を望むかによってビジネスが生まれるというマーケティングの基礎的な考え方です。ロードマップ2.0では消費者を年代別のセグメントに分けて、「2030年に中心となっているのはどの世代か」「その世代はどのような物の買い方をするのか」「その買い方に適合するのはどのような流通か」「その流通に適合するのはどんな物流か」と消費者が取りうる行動から逆算して「物流はこうなる」と予測しているのです。となると、2030年に購買の中心となっている世代の行動を基準にしないといけません。「何でもスマホで済ませる今の若者は理解できない」や、「ECで買い物したことない」などと言っている人が、13年後の物流を考えられる発想力はないのです。MHIのプレゼンター(多分60歳を越えていると思われる方)が、「我々のようなベビーブーマー世代は、その時(2030年)にはもういないか、消費の中心ではない。だから我々の今の感覚で考えたらダメなんだ」とさらりと言っていたのを聞いて、“アメリカは凄いな”と感じました。皆様の会社では古い世代の方でも、柔軟な発想をベースに将来の投資判断ができているでしょうか?ちなみに世代の区分けは以下の表の通りです。

MHIによる世代の区分け

表:MHIによる世代の区分け

ドイツや日本の場合、米国ほど消費者の行動を深く分析・逆算して予測しているケースを、筆者はみたことがありません。環境や供給者側の状況から分析していることが多いと思います。まぁ、それらの予測を利用する側で、自社の投資判断を行う荷主企業・物流企業にとって、どちらのアプローチが正しいのかということはどうでもいい話です。結局は結果(予測)が重要ですし、双方突き合わせて分析し、判断すれば良いのです。しかし日本的なアプローチに慣れていると、米国の「コンシューマー・ファースト」の手法は非常に新鮮に感じられると思います。ロードマップ2.0をダウンロードして、この「コンシューマー」のセクションを熟読されることを推奨いたします。

世界のIoT化動向とロジスティクス

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